暴風雨限界突破7つの技!超弩級957hPaの嵐を切り抜ける〜コーチング第3話
航海士官の頃、
真冬に台風より激しい嵐に何度か遭いました。
957ヘクトパスカル、風速45mが想像できますか?
この嵐を乗り切った経験から私は、
その後の人生や家庭などすべてで生かせる知恵と確信を学びました。
船が転覆する寸前でも、持ちこたえた極意とは
台風を超える暴風雨に遭遇した悲劇
船で広い海を航海していると、時々、台風や、台風並みの低気圧に遭遇します。
(特に2月は太平洋南部によく発生し、
台風と同じかそれ以上の暴風雨になりますます。
真冬に南シナ海などで発生する、台風級の低気圧は
「台湾坊主」とも言われて、船乗りたちに恐れられています。)
私は船乗りのころ、そんなところに遭遇しないように
航海前に気象情報を収集したり、
情報を分析して暴風圏を避ける針路をとったりしていました。
しかし
どうしても暴風雨に遭遇することが避けられないことがありました。
2月の南太平洋でした。
その低気圧の威力は、台風を遥かに超えていました。
どの様に知恵を絞っても避けられなかった。
そして私達は957ヘクトパスカル級の低気圧の真っ只中に突入したのです。
大型で非常に強い台風に引けを取らない大きさです。
激しい嵐で限界突破した航法とは
それでは
どのようにして、この超弩級低気圧の真っ只中で、遭難せずに生き延びられたか。
そのお話をしましょう。
そのときは来た
もう、もはや迫ってくる低気圧を避けることはできない。
覚悟を決めました。
「荒天航行用意。」
船内に放送を入れました。
これから突入する嵐に備えて
船内の移動する荷物を縛ったりして固定し、
積荷は、転覆しにくい配置に移動します。
舵が万一故障したときに備えて
直接操舵や人力操舵の配員を確認します。
船員がちゃんといるか、
点呼します。
あと、
心構えを持ちます。
絶対に嵐に身を委ねないように。
ブリッジを降りて、急いでおにぎり4個食べて
再びブリッジに立ったら、
まもなく
風とうねりが強まってきました。
風速17メートル。台風の暴風圏クラスです。
来るぞ 来るぞ 来るぞ!
「横からうねりを受けるな!
ライトフルラダー!(面舵いっぱい)
インジケート キープ15ノット!(速力15ノット維持)」
そして
この嵐が通り過ぎるのに何時間かかるか、
近くに危険な浅瀬や岩礁はないか
チェックします。
恐ろしい嵐のど真ん中で
とうとう始まりました。
嵐の真っ只中に入りました。
まるでジェットコースターです。
「ドン!」
波と波がぶつかった激しいうねりの上に乗ったと思えば、
真っ逆さまに落下し、
ものすごい音と衝撃。
自分自身もジャンプしているようです。
嵐の中を進むには
特殊な航法を取ります。
ここで、きっと質問があると思います。
「凶暴とも言える風と波とうねりの中で
船をどのように進めればいいんですか?
強すぎる嵐の中で
船は目的地に進めるんですか?」
一言で言いましょう
嵐の中では目的地に向かうことよりも
自らの姿勢を保つことです。
私達はこの嵐の中で、ひたすら船の姿勢を保ち続けたのです。
嵐の限界でも持ちこたえた航法の秘密
暴風雨の中で姿勢を保ち続ける極意
「姿勢を保つ。」
どのようにするのかというと
ふつう船は、機械(つまりスクリューとそれを回すエンジンなどの機関)で前後に進み
舵で左右の方向をコントロールします。
船乗りは、
たえず変わる風と波とうねりなどの外力の方向を読みながら
機械と舵を自らの意思で制御して操り
船の姿勢をひたすら保つのです。
こうして私は
刻一刻変わる風や波の方向、強さをたえず読みながら
これらの力を真正面から少しずらした角度で受けて立ち向かうよう、
船の姿勢を維持し続けました。
そのためには、
たえず変わる気象の力に抗うように、
自分で舵を取り
速力を出し続けなければなりません。
オートパイロットに頼ってコーヒーなんか飲んでいる暇はありません。
舵を取る、
速力を指示する
風向風速を測る
波うねりの外力を計算する
そしてこれに対応した舵を取る
速力を指示する
一瞬も気を緩めず
あらゆる情報を使い状況を瞬時に判断して
たえず舵と機械を使って
風や波に立ち向かっている(正確には、わずかに角度をずらして立ち向かっている)姿勢を
保ち続けました。
持ちこたえなければならない。
諦めてはならなかったんです
諦めたらどうなるか
「もうこの嵐にはかなわない。
なるようになるだろう」
もし
諦めて
機械と舵の使用をやめて、
嵐のなすがままに漂流したらどうなると思いますか?
時が解決してくれる?
いいえ。
暴風やうねり、波を横向けに受けるようになります。
真横から外力を受けたら
船は横倒しになり、
場合によっては転覆してしまう危険にさらされます。
海の藻屑となります。
だからどうするか?
少し角度をずらしながら抵抗を続ける〜姿勢を明け渡さない
だから
一瞬も油断せず
外力を、斜め前方(約20度くらい)から受けるように、
機械と舵を使って船の姿勢をコントロールするのです。
斜め前方です。
真正面からではありません。
もし、真正面から外力を受けると今度は
船の船首が大きく上がったと思えば
ドスンと海面に落下する
まるでジェットコースターのような衝撃を受けることになります。
だから、斜め前方なのです。
真正面から立ち向かわない。
しかし
自らの姿勢を保ち続け
それを休むことなく続けて
決して負けない
なされるがままにならない
たとえ前進していなくても嘆かない
希望と目標をあきらめない
錯覚に惑わされるな 現実に嘆くな
あのとき、
船は力いっぱい速力を出しているので、
あたかも、猛スピードで進んでいるかのように錯覚しました。
しかし、
海図に自分の位置をプロットしたら
なんと、
進むどころか、
後ろにバックしているではありませんか!
がっかりしました。
落胆しました。
こんなに頑張っても、
1マイルどころか1ヤードも進んでいないじゃないか。
いや、針路からどんどんずれていくではないか。
この激しい嵐の中で、どんなに前に進もうとしても、
物理的に前進は不可能でした。
機械を誠一杯の全出力でかけ続け、
ぐんぐん進んでいると感じていても、
実際にレーダーなどで自分の位置を計測し
海図で確認すれば、
目的地から遠ざかっていたのです。
しかし、
錯覚から目覚めて現実を知っても
いつまでもがっかりしている暇はなかった。
私達は嘆きませんでした。
愚痴を言わず、不安も抱きませんでした。
怖がる暇もありませんでした。
そんなことをしていても間に合わないのです。
だから
たとえ海図では一向に前に進まなくても、
外力の方向をたえず読みながら
機械と舵を自分の意志で操り
船の姿勢をひたすら保ち続けました。
風や波の力に抗うように、しかも少し角度をずらして抗うように。
「嵐にこの船を明け渡してなるものか!」
嵐はすぎる。前進していなくても嘆くな。
たとえ嵐の中で船が目的地から大きく遠ざかったとしても
嵐が過ぎ去ったら改めてレーダーや電波航法などで
自分の船の位置を計測し、
目的地を確認して
海図に新たに針路を記入して
再び進めばいいのです。
これが嵐の中の船乗りの心です。
嵐を進む船乗りの誇りです。
嵐は過ぎ去ります。
かならず。
いつまでも続かないのです。
「嵐の中でも時は経つ
そして嵐は過ぎ去る」
悩んでも間に合わない
嵐の海を航海して
本当に思ったことは
「悩んでも間に合わない」ということでした。
とにかく
方々の体で、船の姿勢を保たなければなりません。
愚痴や不安なんか言っている時間はないのです。
素早くトリムの計算をして積み荷の位置を変え
一刻一刻に変わる波風うねりの外力を見て
それに支配されないように
機械と舵を使って
船の姿勢を保ち続けなければなりません。
そんなとき、
「驚いても間に合わない」のです。
「悩んでも間に合わない」のです。
思い出した恩師の言葉
私は、嵐の海で、必死に船の姿勢を守りながら、
学生時代に、
合気道の稽古をしていたころのことを思い出しました。
合気道の道場で畳に血がしみこむほど稽古をしていたころのことです。
恩師はこう言われました。
「何かあるのが人生だ。
驚いても間に合わない。
悩んでも間に合わない。」
何かは
突然起こるんです。
それが起こった時、
驚いても、
悩んでいても間に合わないんです。
なにかが突然起こったとき
何かは、突然起こる。
突然起こったときに、悩んでいても間に合わない。
じゃあどうするか。
どうするべきかの作戦会議を素早く行い
(一人の時は、自分の中の数人の自分で会議を開くといいでしょう)
すぐにとるべき行動と、後にしてもよい行動のプライオリティーをつけ
すぐにとるべき行動を
果敢にはっきりと取るのです。
例えば、船と船が衝突しそうな状況になったとき、
衝突を避けるための動きは、中途半端に取らない。
相手がはっきり認識できるように、大きく、すぐさま明確に動く。
「何かは起こる」というのは
船を運航していた時、何度かありました。
嵐に遭遇して転覆しそうになった時、
衝突しそうになった時、
ボイラの火が突然消えた時など・・・
まさにあのときも
「悩んでいても間に合わない」
でした。
悩んでいる間に、船は動いたり動かされたりしてるんだからね。
とっさに取るべき行動をしなければならないわけなんです。
「悩む」のと
「いざ何かがあった時にこうしよう」と日常から考えるのは
性質が違います。
だからできるだけ
無駄に悩むのをやめ
いざというときの考えを深めておく。
このように日常から臨むことが重要です。
「なにかが起こったとき、悩むな。
果敢に行動せよ。
嵐の中でも時はたつ。
しかし、
その間、自分を明け渡すな。
姿勢を保て。
その先の航路は、嵐が去ってから定めれば良い。」
この教訓は
船乗りでなくなった今も
大切にしています。
この記事の目的とまとめ
私の海の上での経験から、
嵐の海を乗り切った極意をお話しましたが、
このお話の目的は、
航海術を伝授することではありません。
本当の目的は
誰も経験できない、もちろんだれも経験したいとも思わない、
私の本当に辛かった経験から
やっと気づいたことを、
あなたに、苦労せずに知ってもらい、
人生や家庭に役立ててほしいからです。
この経験から得たことを、
これからの生活やビジネスにどう生かしていけるか
これについては第4話の記事で投稿します。
今回の記事でお話したことは
という7つのポイントでした。
次回は、これを人生やビジネスの場でどう活かすかについて
掘り下げましょう。
↓
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